こんにちは。絵本のサイト絵本ライフ、運営者の「絵本ライフ編集長」です。
新緑がまぶしい季節になると、子どもたちと一緒に楽しみたくなるのがエリック・カールの名作絵本ではないでしょうか。鮮やかな色彩とユニークな仕掛け、そして成長の喜びを描いたストーリーは、世代を超えて愛され続けていますね。
特に4歳児クラスの担任を持たれている先生や、お家で工作を楽しみたい保護者の方にとって、はらぺこあおむしの製作は5月の活動として非常に人気があります。しかし、いざ準備を始めようとすると、「今のクラスの子どもたちに合ったねらいは何だろう?」「マンネリ化しない新しい技法はないかな?」と、指導案の作成や準備で悩んでしまうこともあるかもしれません。
年中さん(4歳児)になると手先が器用になり、はさみやのりを使った表現の幅がぐっと広がります。廃材を使った立体的な作品や、デカルコマニーのような「偶然性」を楽しむ技法を取り入れることで、子どもたちの創造力は驚くほど豊かに開花します。この記事では、壁面装飾にもぴったりな導入のアイデアや、具体的な作り方の手順、そして一人ひとりの個性を引き出す言葉がけのヒントを詳しくご紹介していきます。
- 4歳児の発達段階に適した具体的な製作のねらいと指導ポイント
- 水風船や卵パックなど身近な素材を使ったユニークな技法
- 子どもたちの興味を引きつける絵本読み聞かせなどの導入方法
- 5月の保育室を彩る壁面構成や環境設定の具体的なアイデア
4歳児の発達を促すはらぺこあおむしの製作技法

年中組にあたる4歳児は、3歳児までの「個」を中心とした活動から、徐々に「集団」を意識した活動へと移行する大切な時期です。手先の器用さ(巧緻性)が増し、想像したものを形にする喜びを強く感じ始めます。ここでは、そんな彼らの発達をしっかりと支えつつ、絵本の世界観を存分に楽しめる具体的な製作技法と、その背景にある「ねらい」について深掘りしていきます。
発達段階に合わせた活動のねらい
4歳児の製作活動において最も大切なのは、子どもたちが「自分でできた!」という達成感を味わいつつ、少し難しいことにも挑戦できるような「ねらい」を設定することです。この時期の子どもたちは、単に作るだけでなく、作ったものを使って遊んだり、友達と見せ合ったりすることに大きな喜びを感じます。
具体的には、保育所保育指針などの公的な指針に基づき、以下のようなねらいを設定することができます。
【主な活動のねらい(4歳児)】
- 表現:物語のイメージを膨らませ、色や形を工夫して自分なりのあおむしさんを表現する。
- 健康:はさみやのりなどの道具を正しく使い、指先の調整力を高める。
- 人間関係:友達と材料を共有したり、互いの作品を見せ合ったりすることで、他者との関わりを楽しむ。
- 環境:身近な廃材が魅力的な作品になることに気づき、物を大切にする心を育む。
これらは、「表現」「健康」「人間関係」といった領域に深く関わっています。例えば、あおむしさんの体を繋げる作業一つとっても、指先の微細運動能力(ファインモータースキル)を養う絶好の機会になります。また、完成した作品を友達と見せ合うことは、自己肯定感を育む大切なステップになります。
子どもたちの発達過程や保育の指針について、より深く理解したい方は、公的な資料も参考にしてみてください。
(出典:厚生労働省『保育所保育指針』)
絵本の読み聞かせによる導入の工夫

製作活動の質は、実は「導入」で8割が決まると言っても過言ではありません。子どもたちの心をグッとつかみ、「作りたい!」という意欲を引き出すためには、やはり絵本『はらぺこあおむし』の読み聞かせが効果的です。ただし、ただ読むだけではもったいないですよ。
色彩への着目を促す
私がおすすめするのは、読み聞かせの中に「視点の誘導」を取り入れることです。ページをめくりながら、「あおむしさんの体、よーく見てみて。緑色だけかな?」「ここには黄色も隠れているね」と問いかけてみてください。こうすることで、後の着色活動で単色ではなく、色を混ぜたり重ねたりする工夫への伏線となります。
形状と構造への気づき
また、「蝶々さんの羽、右と左で同じ形をしているね」といった言葉がけも有効です。これは、後述するデカルコマニー(合わせ絵)における「対称性(シンメトリー)」の理解を助けることにつながります。
♪ 音楽も活用しよう
絵本の歌に合わせて体を動かしたり、歌ったりしてから製作に入ると、子どもたちの緊張がほぐれ、表現意欲が開放されやすくなります。「ノリノリ」で歌って体をほぐしてから机に向かうのが、スムーズな導入のポイントです!
水風船のスタンプで作るあおむし

「えっ、水風船を使うの?」と驚かれるかもしれませんが、これが4歳児にはぴったりの技法なんです。水を入れた小さな風船は、ぷよぷよとした独特の感触があり、触っているだけでも子どもたちの五感を刺激します。筆圧の調整がまだ未熟な子でも、スタンプなら簡単に美しい形を作ることができます。
準備と手順
この水風船に絵の具をつけて画用紙にポン!と押すと、誰でも簡単にきれいな「円」が描けます。筆を使ってきれいな丸を描くのはまだ難しい子でも、スタンプならリズムよく連続して押すことができ、長いあおむしさんの体を表現する楽しさを味わえます。
ポイントは、緑一色ではなく、黄緑や深緑など複数の色を用意してあげること。色が重なり合うことで、エリック・カールのコラージュのような深みのある色合いが偶然生まれ、「見て見て!色が混ざったよ!」「僕のあおむしさん、お洋服がおしゃれになった」という発見にもつながります。
【安全上の注意】
水風船は誤飲を防ぐため、口を固く結び、万が一割れても破片が飛び散らないよう二重にするなどの配慮が必要です。必ず大人の目の届く範囲で行ってください。また、ラテックスアレルギーのあるお子さんがいる場合は、たんぽ(ガーゼに綿を詰めたもの)などで代用しましょう。
デカルコマニーで表現する蝶
物語のクライマックス、美しい蝶々さんに変身するシーンを表現するなら、「デカルコマニー(合わせ絵)」が断然おすすめです。画用紙の半分に絵の具を乗せ、半分に折ってから開くときの、あの子どもたちの輝く表情といったらありません!
この技法の素晴らしいところは、「偶然できた模様の美しさ」を楽しめる点と、「左右対称(シンメトリー)」の概念を感覚的に学べる点です。
| 工程 | 指導の言葉がけ例 | ねらい・ポイント |
|---|---|---|
| 1. 絵の具を乗せる | 「蝶々さんの羽、どんな色にしたい?好きな色を置いてみよう」 | 色の選択と配置を楽しむ。混色の面白さを予感させる。 |
| 2. 半分に折る | 「アイロンをかけるように、手でぎゅっぎゅっと押さえてね」 | 手のひら全体を使って圧をかける感覚(固有受容感覚)を味わう。 |
| 3. 開く | 「せーの、で開いてみよう!わあ、魔法みたいだね!」 | 左右対称の不思議さに気づく。偶然できた模様からイメージを広げる。 |
4歳児であれば、あらかじめ蝶々さんの形に切った画用紙を用意しても良いですし、後半の時期なら、半分に折った画用紙に線を描いておき、自分たちで切ってからデカルコマニーをするという工程に挑戦するのも良いでしょう。
卵パックなどの廃材を使う立体製作
平面だけでなく、立体的な製作にも挑戦したい場合は、卵パックの出番です。あのポコポコとした凹凸は、まさにあおむしさんの体にうってつけ。家庭から出る廃材が素敵なおもちゃに変身する体験は、物を大切にする心(SDGsの視点)も育みます。
「詰める」作業で指先を鍛える
作り方はシンプルです。カットした卵パックの中に、丸めた花紙やちぎった折り紙を「詰める」だけ。この「詰める」という作業や、中身が出ないように底をテープや画用紙で留める作業は、指先の巧緻性を高めるのに非常に有効です。
透明なパック越しに見えるカラフルな紙はとてもきれいで、光にかざして「ステンドグラスみたい!」と楽しむ子もいます。モールで触角をつければ、世界に一つだけの「透明なあおむしさん」の完成です。葉っぱを作って乗せてあげれば、すぐにごっこ遊びが始まりますよ。
はらぺこあおむしの製作を通した4歳児の指導計画

楽しい製作活動も、しっかりとした計画があってこそ。ここでは、実際の保育現場や家庭での活動をスムーズに進めるための、具体的な指導計画や環境構成のポイントについて解説します。時間配分や、つまづきやすいポイントへの対処法も押さえておきましょう。
はさみの練習を取り入れた指導法

4月や5月は進級したばかりの時期なので、基本的な道具の使い方を見直す良いチャンスです。特にはさみは、怪我のないよう安全指導を含めて丁寧に行いたいですね。
あおむしさんの製作で言えば、例えば画用紙を細長く切って「輪つなぎ」にする活動や、丸い形を切り抜く活動が考えられます。ただ、いきなり曲線を切るのは難しい子もいます。そんな時は、「一回切り(連続切りではなく、チョキンと一度で切れる幅)」から始めたり、太めのガイド線を書いてあげたりする配慮(スキャフォールディング)が大切です。
【はさみ指導のポイント】
- 持ち方:「お父さん指(親指)は小さいお部屋、お兄さん指とお姉さん指は大きいお部屋だね」と具体的に伝える。
- 紙の操作:「はさみじゃなくて、紙の方をくるっと回すんだよ」と、保育者が実際にやって見せる(モデリング)。
- 渡し方:「刃の方は自分が持って、持ち手を“どうぞ”しようね」とマナーも伝える。
この時期にはさみの基礎を固めておくと、その後の製作活動がぐっとスムーズになります。
ジャバラ折りで作る動くおもちゃ

少し難易度を上げたい場合や、4歳児クラスの後半におすすめなのが「ジャバラ折り(蛇腹折り)」を使ったあおむしさんです。2本の細長い紙を直角に貼り合わせ、交互に折っていくこの作業は、規則性を理解する力(アルゴリズム的思考)と根気強さが求められます。
「緑を倒して、次は黄緑。また緑…」と声をかけながらリズムよく折っていく過程は、まるでパズルのよう。最初は「できない~」「どっちを折るの?」と混乱する子もいるかもしれませんが、保育者が後ろから手を添えて一緒に折ることで、「わかった!」という瞬間に立ち会えます。
完成した胴体の両端に割り箸をつければ、ビヨヨンと伸縮する楽しい動きのあるおもちゃ(操り人形)になります。自分で作ったものが動く喜びは格別で、家に持ち帰っても長く遊んでくれること間違いなしです。
5月の保育室を彩る壁面構成
子どもたちの作品が出来上がったら、素敵な壁面装飾にして飾りましょう。5月の壁面テーマとして「はらぺこあおむし」は定番ですが、単に作品を並べて貼るだけでなく、ストーリー性を持たせるとより魅力的になります。
【壁面レイアウトのアイデア】
- 動線を作る(物語の再現): あおむしさん達が、美味しそうな食べ物(りんごやイチゴ、ペロペロキャンディなど)に向かって歩いているように配置します。食べ物にパンチで穴を開けておくと、よりリアルになりますよ。
- 成長を見せる(時系列): 壁面の上の方(空)には、デカルコマニーで作った蝶々さんや太陽を配置し、下の方(地面)にはあおむしさんを配置することで、成長ストーリーを視覚化します。
- 共同製作の背景(一体感): 大きな模造紙にクラス全員で手を使って絵の具を塗り広げた(フィンガーペイント)特大の「葉っぱ」や「原っぱ」を背景にします。個人の作品と共同作品が融合し、クラスの一体感が生まれます。
「あ、僕のあおむしさんがリンゴ食べてる!」「〇〇ちゃんの蝶々さん、気持ちよさそうに飛んでるね」と、壁面を見ながら会話が弾むような構成を目指してみてください。
指導案に盛り込む環境構成の工夫
指導案を作成する際は、「活動前」「活動中」「活動後」それぞれの環境構成を意識しましょう。子どもたちが主体的に取り組めるような仕掛けが大切です。
- 活動前(興味の喚起): 絵本や図鑑を見える場所に置いておき、いつでもあおむしさんの姿を確認できるようにする。完成見本を飾って「これ作りたい!」という期待感を高める。
- 活動中(支援の工夫): 道具はグループごとに使いやすい配置にする。はさみや折り方が苦手な子のために、工程を写真で示した「手順カード」を各テーブルに用意するなどの視覚支援を行う。
- 活動後(振り返り): 「ここが難しかったけど頑張った」「ここを工夫した」と発表し合い、頑張った点を認め合う時間を設ける。
特にインクルーシブ保育の視点からは、感覚過敏で絵の具やのりのベタベタした感触を触りたくない子への配慮も必要です。その場合は、シール貼りで代用したり、スタンプの持ち手を長くしたり、筆やスポンジを使ったりと、その子が無理なく安心して参加できる代替案を柔軟に用意してあげてください。
4歳児とはらぺこあおむし製作を楽しむ

『はらぺこあおむし』をテーマにした製作活動は、4歳児の発達にとって必要な要素がたくさん詰まっています。色や形の面白さに気づき、道具を使って表現し、友達と喜びを共有する。そんな経験一つひとつが、子どもたちの「心の栄養」になっていきます。
製作活動に「正解」はありません。どの子のあおむしさんも、個性的で素晴らしい作品です。ぜひ、今回ご紹介した技法や指導のポイントを参考に、先生も保護者の方も、子どもたちと一緒に「色の魔法」や「変身の不思議」を楽しんでみてください。きっと、教室いっぱいに広がる個性豊かなあおむしさんたちが、素敵な笑顔を運んでくれるはずです。
よくある質問(Q&A)
Q1. 4歳児に『はらぺこあおむし』の製作は難しくないですか?
指先が発達する4歳児に最適ですよ。水風船スタンプやデカルコマニーなど、高度な技術がなくても楽しめる技法を選べば、子どもたちも達成感を味わいながら取り組めます。
Q2. 導入で絵本を読む時のポイントを教えてください。
色彩や形に注目させる問いかけが有効ですね。「あおむしさんは何色かな?」「蝶々さんの羽は右と左が同じだね」など、その後の製作につながる視点を伝えてみてください。
Q3. 水風船スタンプに使う絵の具の色はどうすればいいですか?
緑だけでなく、黄緑や深緑など複数色を用意するのがおすすめです。色が重なることで、エリック・カールの絵本のような深みのある表現が楽しめますよ。
Q4. デカルコマニーで蝶々さんを作る時のコツはありますか?
絵の具を乗せた後、半分に折って「アイロンのように」手でしっかり押さえるよう声をかけましょう。開いた時の「わあ!」という驚きを共感することが大切です。
Q5. 卵パックの製作は危なくないですか?
切り口で手を切らないよう、事前に保育者がテープで保護しておくと安心ですね。中に紙を「詰める」作業は指先の運動にもなり、立体的な作品が作れます。
Q6. はさみがまだ上手く使えない子への指導はどうすれば?
一回で切れる幅の紙を用意したり、太いガイド線を描いたりして難易度を調整しましょう。紙の方を回すコツを、先生が実際に見せるのも効果的です。
Q7. ジャバラ折りは4歳児には難しすぎませんか?
根気が必要ですが、規則性を理解する良い練習になります。最初は保育者が手を添えて、「緑、黄緑…」とリズムよく折る手助けをしてあげてください。
Q8. 壁面装飾をもっと楽しくするアイデアはありますか?
あおむしさんが食べ物に向かって歩く動線を作ったり、共同製作で大きな葉っぱを作って背景にしたりすると、物語の世界観が広がって素敵ですよ。
Q9. 絵の具やのりのベタベタが苦手な子がいます。
無理強いせず、スタンプの持ち手を長くしたり、シール貼りで代用したりするなど、その子が安心して参加できる方法を提案してあげてくださいね。
Q10. 製作した作品はどう活用すればいいですか?
壁面に飾って鑑賞した後も、葉っぱの上に乗せてごっこ遊びに使ったり、動くおもちゃとして家に持ち帰ったりして、長く楽しむことができますよ。
【免責事項】
本記事で紹介した製作活動は一般的な目安です。実際の活動においては、子どもの発達状況やアレルギー(ラテックス等)に十分配慮し、誤飲などの事故がないよう安全管理を徹底した上で実施してください。
